東京高等裁判所 昭和47年(ネ)962号 判決 1976年10月25日
控訴人
菅谷茂雄
右訴訟代理人
矢田部理
外二名
被控訴人
大川徳次
右訴訟代理人
大塚喜一
外一名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
1本件土地に関して、昭和四五年七月一七日、控訴人主張のような内容の売買契約が成立したことは、被控訴人において認めるところ(なお、所有権移転登記手続と残代金支払との同時履行の関係の有無については暫くおく)、争点は、右売買契約が通常の本件土地それ自体の売買かそれともいわゆる念書売買であるかという点にあるから、まず、これについて判断を進める。
2<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。
茨城県鹿島臨海工業地帯においては、土地開発のため、県および関係町によつて結成された鹿島臨海工業地帯開発組合において、開発該当地域の土地を一括買収し、土地開発完了後に、公共用地、提供用地などを減歩したうえ、一定地域において相当坪数の土地を替地として売渡人に提供しかつ所有権取得登記手続を公権をもつてすることとなつており、前記買収にあたり売渡人と開発組合との間に交わされた売買契約書を俗に念書といい、右念書には、売却土地の替地として提供するべき代替地の面積は表示されているが、その場所、提供時期などは明示されていない。
そして、いわゆる念書売買とは右のような事情のもとにおいては該当地域の土地はすでに開発組合において買収されてはいるが、その代替地の交付を受けることが確約されていることから行われるようになつた土地に関する取引であつて、代替地の地域が特定せず、かつ、所有権取得登記も開発完了前にはすることができないことから、右土地に関する土地代金の完済と同時に、売主は開発組合等発行の土地売買契約書を買主に引渡し、さらに、開発組合の提供すべき替地売渡し承諾書を買主に提供し、開発組合の土地台帳の権利者を売主名義から買主名義に変更することによつて取引の完了があつたものとし、土地開発計画完了の際に開発組合が最終買主名義をもつて所有権保存登記をし、もつて最終買受人の権利を確保するものである。
右鹿島臨海工業地帯の該当地域においては、右の念書売買形式の土地取引がかなり広く行われていた。
以上の諸事実が認められる。
(右の念書売買は、窮極的には、代替地の取得を目的とする土地の売買であるといえるが、個々の取引を法的にみるときには開発のために土地を開発組合等に売り渡した者から、開発組合等から代替地の提供を受ける権利を第三者に売却するものであると解することが可能であるが、この点の法的性質のいかんは、本訴請求の当否と直接関係するものではない。)
3<証拠>を総合すると、次の事実を認めることができる。
本件土地は、昭和四三年一二月二五日被控訴人から鹿島臨海工業地帯開発組合に対し売渡され、昭和四四年三月一四日付でその旨の所有権移転登記が経由されていること。控訴人は、昭和四五年当時不動産取引の経験を有していた(したがつて、鹿島臨海工業地帯におけるいわゆる念書売買の取引についてもこれを知つていた)が、昭和四五年訴外芝常吉に対し鹿島臨海工業地帯の商業地域の土地の購入方を希望し、同訴外人のあつせんで、昭和四五年七月一七日、控訴人と被控訴人間に前記売買が成立し、契約書(乙第一号証)が作成されたこと、右契約書作成の際、被控訴人から波崎町長あての本件土地の売買契約書(乙第二号証の一。念書に相当する)が取り寄せられ、代金は、坪二万四、〇〇〇円の割合で本件土地の代替地面積514.55坪を計算し、総計一、二三〇万円(差引金四万九、二〇〇円は被控訴人において減額)と定められたこと、右契約のさい念書売買であることが控訴人・被控訴人間で話し合われた。
以上の事実が認められ、それによると、昭和四五年七月一七日成立した売買はいわゆる念書売買であるというべきである。
<証拠>中には、右認定に反する部分もあるが、にわかに措信しがたく、また、乙第一号証には、通常の土地売買における契約書の文言の不動文字の記載があるが、これは市販の契約書を用いた結果であるから、本件土地の売買を念書売買であると認定することを妨げるものではない。
4そうだとすると、昭和四五年七月一七日通常の売買が成立し、それが昭和四五年一〇月一七日念書売買に変更されたこと(同日念書売買が成立したことは、措信しえない控訴人の供述のほかは、これを認むべき証拠がない。)を前提とする控訴人の本来的主張および予備的主張はすべて理由がない。
5以上述べたとおり、控訴人の本訴請求は理由がなく、失当としてこれを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九五条を適用し、主文のとおり判決する。
(瀬戸正二 奈良次郎 小川克二)